仙台地方裁判所 昭和25年(行)11号 判決
原告 笹森金三郎
被告 宮城県知事
一、主 文
別紙目録記載の宅地について、被告が、訴外角田町農地委員会において昭和二十三年二月十六日定めた買收計画に基き、買收令書(同年七月二日附)を交付して爲した買收処分及び右委員会において昭和二十四年一月一日定めた賣渡計画に基き、賣渡通知書(同年二月附)を交付して爲した賣渡処分は、ともに無効であることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として別紙目録記載の宅地は原告の所有であつて、原告は昭和二十年六月十三日以來訴外渡辺林五郎に之を賃貸してきたものであるが、訴外角田町農地委員会は右渡辺の申請に基いて昭和二十三年二月十六日之について自作農創設特別措置法(以下自創法と称する)第十五條により買收計画を定め、同月十八日公告したので、原告は同月二十四日右委員会に異議の申立をした。しかるにその後原告と渡辺との間に示談成立し、同年三月十日渡辺は右申請を取下げ、同時に原告は異議の申立を取下げた。
しかるに角田町農地委員会は右買收申請の取下げを不適法とし、買收計画は異議の取下げにより確定したものとして爾後の手続を進め、被告は右買收計画に基き原告に対し同年七月二日附買收令書をその頃交付し、角田町農地委員会は昭和二十四年一月一日賣渡計画を定め被告は之に基いて同年二月頃渡辺に対し賣渡通知書を交付した。
以上の次第で被告の爲した買收処分及び賣渡処分は、ともに無効であるから、その確認を求める爲め本訴請求に及ぶと述べた。
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する、との判決を求め、答弁として原告主張の事実は、すべて認める。しかしながら買收計画について異議の申立があつた場合その異議の申立が縱覧期間経過後に取下げられたときは買收計画は縱覧期間満了の日に遡及して確定するが、買收申請の取下げがあつても、その効力は取下げの日に発生するに過ぎないから、確定した買收計画は、買收申請の取下げによつて何等影響を受けない。從つて買收計画は確定し、それに基いて爲された買收処分及び賣渡処分はともに有効である。以上の理由により本件買收及び賣渡の処分は何れも無効ではないと述べた。
三、理 由
本件宅地は原告の所有であつて、原告は訴外渡辺林五郎に昭和二十年六月十三日以來之を賃貸してきたこと、訴外角田町農地委員会は右渡辺の申請に基いて昭和二十三年二月十六日之について自創法第十五條により買收計画を定め、同月十八日公告したので、原告は同月二十四日右委員会に異議の申立をしたこと、その後原告と渡辺との間に示談成立し、同年三月十日渡辺は買收申請を、原告は異議申立をそれぞれ取下げたこと、被告は原告に対し同年七月二日附の買收令書をその頃交付し、角田町農地委員会は昭和二十四年一月一日賣渡計画を定め、被告は之に基いて同年二月頃渡辺に賣渡通知書を交付したことは当事者間に爭がない。
よつて、右買收の申請の取下げの効力について判断すると、自創法第十五條所定の宅地買收は同法所定の自作農創設の目的を以てする農地買收に附随して行われ、その買收も、買收の申請を爲す権利を有するものの申請をまつて初めて之を爲し、買收の申請を爲すかどうかはその申請者の任意に委せられているのであるから、一度買收の申請を爲した後でも、買收令書が交付され、右申請に基く買收手続が完了する迄の間、右申請は之を取下げることができ、これによつて右申請はその効力を失うというべきである。
而して、又右宅地の買收は、その買收の申請を爲す権利を有するものが買收の申請を爲した場合に限り初めて之を爲すことができ、これとは別に職権による買收は許されない、しかも買收せられた宅地は結局において、右買收の申請を爲したものに賣渡されなければならないのであるが、この賣渡を爲すためには更にその買受の申込をまたなければならないのであるから、このようなことから判断すると、前記法條所定の宅地を、その買收の申請がないのに、政府が誤つて買收したような場合はその買收は法規の目的とするところと相反し無効であるといわなければならない。
本件においては、既に認定した通り原告と渡辺との間に示談が成立し、渡辺が買收の申請を取下げたのであるから、買收の申請はその効力を失い、本件宅地は買收することができなくなつた筈である。それにも拘らず、その買收の手続が進行され、買收令書の交付が爲されたのであるから、右買收は法規に違反し無効である、從つて右買收を前提として爲された前記賣渡も無効である。
被告は右説明とは異る見解の下に前記買收の申請の取下げがあつても尚本件宅地の買收ができると主張するけれども之を採用することができない。
以上説明の通りであるから本件買收処分及び賣渡処分の無効であることの確認を求める原告の本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する次第である。
(裁判官 松尾巖 伊藤正彦 片桐英才)
(目録省略)